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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和60年(ネ)157号 判決 1988年10月19日

控訴人(附帯被控訴人)

右代表者法務大臣

林 田 悠紀夫

右指定代理人

杉 垣 公 基

外一三名

被控訴人(附帯控訴人)

高 原 一 郎

右訴訟代理人弁護士

伊 神 喜 弘

主文

一  本件控訴に基づき、原判決中控訴人(附帯被控訴人)の敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。

三  被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は、第一・二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という)

1  本件控訴として

(一) 原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という)の請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。

2  附帯控訴に対し

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

二  被控訴人

1  本件控訴に対し

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

2  附帯控訴として

(一) 主位的請求

(1) 原判決中、被控訴人の主位的請求を棄却した部分を取り消す。

(2) 被控訴人と控訴人間で、被控訴人が控訴人に対し労働契約上の権利を有すること(若しくは、被控訴人が控訴人の職員たる地位を有すること)を確認する。

(3) 訴訟費用は、第一・二審とも控訴人の負担とする。

(二) 予備的請求

(1) 原判決主文第二、第三項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和四七年六月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は、第一・二審とも控訴人の負担とする。

(3) (1)につき仮執行の宣言

第二  当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決三六枚目裏三行目の「臨時補充」を「臨時補充員」、同四〇枚目表四・五行目の「配達郵便物授受表」を「配達郵便物受授表」と改める)。

一  控訴人の主張

1  被控訴人の任用状況に関する事実経過について

(一) 昭和四六年一一月五日の説明

野口課長代理は被控訴人に対し、昭和四六年一一月五日、「日々雇い入れの臨時雇である」「臨時雇は日雇である」と説明し、さらに「雇用期間は二か月以内である」若しくは「予定雇用期間は二か月を限度とする」と説明をした。右用語から被控訴人の任用は、任期を一日とする雇用であり、予定雇用期間内では自動更新されるが、期間の満了により当然にその地位を失うという雇用形態であることは十分理解しうるというべきである。したがって、被控訴人に継続雇用を期待させるような人事管理上の義務違反はない。

(二) 昭和四六年一一月六日の最初の任用の際の任用手続

野口課長代理は、昭和四六年一一月六日、被控訴人に対し、辞令簿を読み聞かせたうえ、これを見せて被控訴人に押印を求めたが、右辞令簿には「臨時雇を命ずる。日額一二四〇円を給する。集配課勤務を命ずる。予定雇用期間は昭和四七年一月五日までとする。」と記載されており、右記載は予定雇用期間を明確にする表現として十分なものである。

(三) 昭和四七年一月五日の冬期請負

被控訴人は、昭和四七年一月五日は冬期請負人の代人として勤務したものである。すなわち、同日、冬期請負人南部兄治が所用のためその請負業務を休みたいとの申出とともに代行者の確保について依頼してきたので、野口課長代理が被控訴人をその代人として斡旋することとし、被控訴人にその旨通知している。もっとも、被控訴人は前日まで処理していた市内三六区以外の業務に精通していなかったため、冬期請負人の担当区を処理させることは労苦を伴うだけでなく、業務運行上支障が生じるおそれもあったので、変則的ではあるが市内三六区を処理させたものであり、このことが右同日被控訴人が冬期請負人の代人であったことを否定する理由とはならない。

(四) 昭和四七年一月六日から同月九日までの中断期間

被控訴人は昭和四七年一月五日解免され、同月一〇日付で新たに任用されており、その間は中断期間である。辞令簿上、被控訴人の一月一〇日の発令の下欄に一月七日付の辞令の記載があるが、決裁の関係から任免月日が前後することは他にも例があり、被控訴人の場合、一月五日の解免のときに次の発令を知らせてあった関係で、その後に雇用伺を出した高島勇より前に辞令簿に記載されることになったものである。また、出勤簿である非常勤職員勤務記録書(以下「勤務記録書」という)にも右期間、被控訴人の出勤印は押捺されていないし、配達郵便物受授表(以下「受授表」という)の当時被控訴人が担当していた市内三六区の配達担当者受領印欄にも被控訴人の押印はない。しかも、非常勤職員賃金請求書(兼支給台帳、以下「賃金台帳」という)、勤務記録書からみても、右期間の賃金は支払われておらず、右期間が中断期間であることは明らかである。

(五) 昭和四七年二月二六日から同月二八日までの中断期間

福井局は、昭和四七年二月二五日に被控訴人から同日午後及び翌日を休みたいとの申し出を受け、予定雇用期間前であったが、一旦日日雇用の更新を打切ることとし、その旨を被控訴人に通知した。

被控訴人は、右二六日と二八日は被控訴人が私用のために福井局に電話連絡して休暇を取り、二七日は日曜日で週休日とされており、三日間勤務のない状態となったので、集配課では同月二五日に遡って被控訴人を解免し、右三日間を中断期間としたものであって、右期間は中断期間ではないと主張し、その根拠として、辞令簿の記載によれば、昭和四七年二月二五日付の辞令は、被控訴人の分を除き一括決裁されており、同日付の被控訴人の臨時雇を免ずる旨の辞令のみが次の同月二八日付の辞令とともに一括決裁されているという。しかし、右辞令簿には、何件かの辞令をひとまとめにして、「以下三件」等として一括決裁されている例があるが、これらの一括決裁は、局長、課長の決裁印が押印されている欄の辞令を含めて、その欄以前の欄を取りまとめる方法が取られ、とりまとめた件数は、右決裁印の欄に余白がないため、その上の欄の下部に「以下三件」等というように記入する処理がされているのであり、二月二五日付の長崎加代子、藤井亜紀子と被控訴人の辞令が一括決裁されているものである。

(六) 昭和四七年三月三〇日の解免

(1) 被控訴人の昭和四七年二月二九日付任用は、当初予定雇用期間を同年三月三一日までとしていたが、昭和四六年の会計年度末である同四七年三月三一日については、昨年度末における臨時雇に対する賃金の支払清算を三月三一日中に完了しなければならないという予算執行上の要請から福井局においては、被控訴人を含む臨時雇全員について三月三〇日をもって解免した。すなわち、郵政事業特別会計においては、「毎会計年度所属の歳入金を収納し、又は歳出金を支払うのは、当該年度の三月三一日限りとする」(郵政事業特別会計法施行令第三条)とされ、かつ、郵便局における現金出納は、月曜日から金曜日までの日が午前九時から午後四時まで、土曜日が午前九時から正午まで(郵便局における為替貯金等事務窓口取扱時間・昭和二七年郵政省告示第三一五号)とされており、昭和四七年三月三一日(金)、被控訴人を所定どおり勤務(午前七時二五分から午後三時二四分まで)させたうえ、その日のうちに賃金の支払清算をしてしまうというのは、実務処理上、時間的に困難であったもので、これらの取扱は実務処理慣行にも合致するものである。また、被控訴人の勤務記録書の同日欄が空欄になっていること及び賃金台帳により同日の賃金が支払われていないことからも明らかである。

(2) 昭和四七年三月三一日付受授表に被控訴人の印が押捺されているが、被控訴人が同日出勤したことを示すものではない。すなわち、右受授表に被控訴人の押印があるのは特配区の欄であるところ、被控訴人は、当時市内三五区(当該三五区は同年二月一五日までは三六区と指定されていた)を担当し、特配区を担当するようになったのは、同年四月一日以降のことであるから、その以前の三月三一日に被控訴人が特配区を担当することはありえず、四月一日以降に右受授表を整理した職員が三月三一日分の受授表の特配区の配達担当者受領印欄の印もれを発見し、その時点では被控訴人が特配区を担当していたため、三月三一日も被控訴人が担当したものと勘違いして被控訴人に指摘し、被控訴人が後日になって押印したものである。

(七) 再任用の際の手続関係

(1) 再任用の際の意思の確認

福井局において、被控訴人を再任用する際、その都度、辞令欄に被控訴人の押印を求め、被控訴人もこれに応じていたから、被控訴人の雇用継続の意思確認はこれにより行われていたというべきである。仮に被控訴人が主張するように、被控訴人が担当者に印鑑を預けて押印してもらうようなことがあったとしても、それは被控訴人の意思に基づく行為であって、これにより被控訴人の認識や意識に影響を及ぼしたとしても、被控訴人自身で責任を負うべき問題である。したがって、福井局が被控訴人の意思も確認することなく、当然のように任免を繰り返していたということにはならない。

(2) 再任用の際の予定雇用期間の告知等

被控訴人を再任用する都度、野口課長代理は松原主任は被控訴人に予定雇用期間を明記した辞令簿の内容を読み聞かせ、被控訴人に直接辞令簿へ押印させていたから、これによりその告知はなされていた。

(八) 被控訴人に対する言動

(1) 原判決は、「職場内には、被控訴人のように約八か月にわたって臨時雇として働いている者に対しては、将来本務者になるであろうという見方をする本務者がいた」と認定しているが、本務者となる者の多くが臨時雇を経験していたとしても、本務者の採用は採用試験によるものであり、臨時雇の任免等に何らの権限を有さない一般職員の中に具体的根拠もなしに漠然とした想像でそのような見方をする者が仮にあったとしても、福井局の人事管理上の問題とは無関係であって、人事管理義務違反の判断にあたって考慮すべき事実ではない。

(2) 被控訴人は、昭和四七年二月三日、福井局の指示により健康診断を受け、その結果作成された「採用時身体検査票」には、採用して差し支えない旨の医師の記載がなされている。しかし、右健康診断は、臨時雇についても雇用が通算して二か月を超えると、健康管理のために受けさせていたものであって、「採用して差し支えない」との身体検査票の記載は、本務者としての採用を意味しているものではなく、被控訴人を臨時雇として採用して差し支えないとの趣旨である。また、右健康診断の際、同僚の本務者から「いよいよ採用だな」と言われた事実が仮にあったとしても、右発言は福井局の人事管理上の権限を有する者の発言ではないから、本件において何ら問題となる余地のないものである。

(九) 雇止めの事前告知

原判決は、福井局土井集配課長や野口課長代理は、被控訴人が本務者となる希望を有していることを知りながら、昭和四七年七月以降の再任用が困難なことを雇止めまで何ら告知しなかったと認定し、臨時雇として継続雇用されることと本務者となることとが関係を有するかのような判断をしているが、臨時雇の任用が長期にわたったとしても、当然に本務者となれるものではなく、逆に臨時雇として雇用されなくなった場合でも、本務者となる途が絶たれるわけではなく、本務者となるためには、いずれにしても採用試験に合格することが必要であって、臨時雇としての雇用の有無とは無関係である。したがって、再任用しないことを事前に告知しなかったことが人事管理上の問題にされる余地はない。しかも、被控訴人を七月以降再任用しないことは、単に見込みに過ぎず、それが明確になったのは、同年七月一日の予定雇用期間満了の日の直前であるから、告知できる状況にもなかった。

(一〇) 以上の事実関係に基づけば、福井局は、被控訴人を臨時雇として任用するにあたり、日日雇用であり、予定雇用期間が二か月であることを説明しており、再任用にあたっても予定雇用期間を告知し、基本通達に定める中断期間を設定しているのであるから、臨時雇を任用する郵便局としての人事管理において何らの過失もなく、被控訴人の主張するような常勤化の現象が生じていたとも言い難い。

2  被控訴人の後記主位的請求にかかる主張に対する反論

(一) 本件雇止めに労働基準法二〇条、二一条の適用があるとの主張は争う。

(1) 郵政職員は、臨時雇も含め国家公務員であり、その勤務関係は公法関係である。現業公務員について、国公法の適用が一部除外され、労働基準法等が適用されることになっているが、勤務関係の基本をなす任免等については、本務者と同様に国公法及び人事院規則の適用を受けるのであって、人事院規則八―一二第七四条(臨時的任用の期間が満了したときは、当然退職する)を排除して、私法上の労働契約に基づく解雇に関する諸法則の適用を認めることは許されない。

(2) 被控訴人は、常勤化した非常勤職員の個別的労働関係は労働法によって規制されるべきであるとして、社会保険の適用関係をその根拠として主張しているが、社会保険の適用関係は概ね認めるも、それを根拠とする被控訴人の労働契約論は争う。

(3) 被控訴人は、臨時雇に対する公法上の規制は全く形骸化し、常勤化現象が顕著であると主張するが、本件臨時雇が常勤化した非常勤職員にあたるとの事実は否認する。

また、任期の定めのある任用がいかに反復継続されても、その勤務関係が私法関係に変ずるとか、任期の定めのない任用に性質を変ずるとかするものではない、

(二) 本件雇止めが差別的取扱であるとの主張は否認する。

(1) 福井局が被控訴人を再任用しなかったのは、郵政省において臨時雇を長期に雇用しないように指導していたところ、被控訴人の場合八か月近くなっており、これ以上の再任用は不適当と考えられていたこと、その時期に新規の臨時雇希望者があったこと、被控訴人が任期満了によって退職した後の昭和四七年七月二日以降、病欠中の臼井進、奥出民男、三上忠治の三名が病気全快により出勤することが予定されていたこと、夏期繁忙要員については例年の慣行として休暇中の高校生、大学生をアルバイトとして使用することが予定されていたことによるものである。また、福井局において被控訴人がいかなる思想・信条を有していたか知る由もなかった。

(2) 被控訴人は、臨時雇は業務能力上支障がない限り本務者に採用されていたと主張するが、採用規定が施行された昭和四二年四月一日以降においては、職員採用試験に合格することなくして、臨時雇あるいは臨時補充員から自動的に本務者になった者はいない。

(三) 本件雇止めが信義則に違反するとの主張は争う。

(1) 被控訴人が常勤化した臨時雇でなかったことは、前記任用状況に関する事実経過から明らかであり、したがって、被控訴人が雇用期間を更新するについて期待権を有していたとの主張は理由がない。

(2) 被控訴人のような現業国家公務員である非常勤職員たる臨時雇は、予定雇用期間が満了した場合、任命権者が新たな任用行為を行わない限り、非常勤職員としての地位が生ずることはありえず、任期の定めのある任用が如何に繰り返されても、その任用が私法関係に変じたり、任期の定めのない任用に性質を変ずることはない。すなわち、国と職員との勤務関係は、法令等の定めに従って行われる任命権者の任用行為によって初めて成立するものであり、任期の定めのある任用と任期の定めのない任用とは性質を異にする別個の任用行為であるから、任命権者による任期の定めのない職員への任命行為がない以上、任期の定めのない職員への任命が有効に成立する余地はない。国公法三三条及び三六条によれば、任期の定めのない一般職の国家公務員の任用については、必ず成績主義に基づく競争試験又は選考によるべきものとされているのに対し、二か月以内の任期を限られた職員等の任用に関する特例について定めた人事院規則八―一四第一条によれば、非常勤職員の採用は、競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる旨定めており、任期の定めのない一般職の国家公務員と任期の定めのある非常勤職員とでは、その任用に当たっての要件を明確に区別している。被控訴人の主張するように、臨時雇が繰り返されることにより、任期の定めのない任用になったり、雇用期間を更新するについて期待権を有するに至ったという理由で任期の定めのない職員になるとすれば、試験も選考も経ないまま任用された非常勤職員が常勤の職員と実質的に同じ地位を得ることになり、右国公法の規定は空文化することになるのであり、被控訴人の主張は国公法の明文に反する取扱を求めるものであって到底許されないものである。したがって、臨時雇について数度にわたって予定雇用期間が更新(新たな任用の繰り返し)された場合でも、予定雇用期間の満了時には当然に退職することになるのであって、新たに任用されることについての期待は法的根拠を欠き、被控訴人が抱いたとする期待権は法的保護の対象となる利益を欠くものである。

3  被控訴人の後記予備的請求に関する主張に対する反論

(一) 人事管理上の義務と不法行為責任

被控訴人は、福井局が被控訴人に対し、違法な人事管理によって、国公法上の制約により保護されない地位への期待を持たせるに至ったとして損害賠償を請求しているところ、郵便局における臨時雇は、一般職の国家公務員であり、その任用、服務等については、臨時雇としての地位や性格に応じて、国家公務員法及び人事院規則並びにこれらに基づく法令等により定められているものであるから、臨時雇を雇用する郵便局としては、これら法令等の定めに従って任用し、人事管理を行うことが要請されていることはいうまでもないが、保護されない地位への期待も持たせないように人事管理すべき義務は、実定法上どこにも規定されていない。仮に人事管理上の義務を想定するとしても、右義務違反が不法行為を構成するというのであれば、右義務の内容を、いかなる時点において、いかなる状況下で、人事管理者はいかなる作為又は不作為の義務が生ずるものであるかを具体的に明示する必要があるが不明確である。また、右義務違反による臨時雇の被侵害利益が存在しなければならないが、被控訴人は臨時雇として雇用されていた期間において、臨時雇としての地位以上の権利は何ら有しておらず、臨時雇は任期のある雇用形態であり、任期の定めのない臨時雇は存在しえないのであって、臨時雇の任用が長期にわたっても任用形態が変化することはないのであるから、再任用あるいは雇用継続を請求できるような権利などが被控訴人に発生する余地は全くなく、被侵害利益は存在しない。

(二) 福井局の被控訴人に対する取扱

福井局の被控訴人に対する取扱の実情は、前記1において主張したとおりであり、福井局が被控訴人に対し、臨時雇の地位について誤解を生じさせたり、本務者として採用されるかのようなあらぬ期待を持たせ、他の就職の機会を失わせるような取扱をした事実はなく、人事管理上の義務違反があるとの主張は理由がない。

(三) 被控訴人の後記予備的請求にかかる主張に対する反論

前記1において主張した被控訴人の任用状況からみても、被控訴人は常勤化した臨時雇とはいえないから、被控訴人の主張はその前提を欠くものである。また、雇用継続の期待権を侵害したと主張するけれども、右期待は、控訴人と被控訴人との勤務関係において生ずる法律上の権利あるいは法的に保護されるべき利益とはいえない。

被控訴人は、福井局における非常勤職員の任免に関するささいなミスや便宜的処理を取り上げ、あたかもこれが損害賠償責任発生の直接的理由であるかの如き主張をするが、仮に福井局において若干のミスや便宜的処理があったとしても、それが国公法等の規制を潜脱して被控訴人に雇用継続を約束したとか、常勤職員としての任用を約束したというものでない限り、事務処理のミスあるいは違則処理として、内部的責任を負うことはあっても、本件において被控訴人に対する損害賠償責任の有無に直接関係するものではない。

したがって、被控訴人の損害賠償請求は、被控訴人に対する任用の実態面からも、法的に保護されるべき利益の面からも根拠がない。

二  被控訴人の主張

1  被控訴人の任用の実態について

(一) 郵政省における非常勤職員の常勤化の実態

(1) 昭和二四年に定員法が制定され、それ以降公務員の定員は法律によって厳格に規制されることになったが、年々増加する事務量の増大に伴い、定員法で定める定員では到底こなしきれない状態が生じ、本来欠員補充、定員増加によって解決されるべき人員問題が非常勤職員の雇用という形で急場をしのぐ実態が常態化してきた。このような状況の中で昭和三四年から始まった全逓の本務化闘争を経て非常勤職員の本務化が計られ、昭和三六年二月には定員外職員の常勤化防止を求める本件閣議決定もなされた。

(2) 郵政省においても、任用規程、任用通達等において、日日雇用の最長期間を二か月とし、臨時雇については、いかなる場合においても予定雇用期間を更新し、または延長することはできないものとしていたが、昭和三六年七月の基本通達、同年一〇月の運用通達を経て、七日間ないし三日間の中断期間を置くことにより、実質的に予定雇用期間を更新する途を開き、中断期間の設定自体も辞令簿の取扱上設定されるだけの形骸化したものとなっていき、臨時雇の常勤化現象が恒常的なものとなっている。また、臨時雇として一定期間勤務していると臨時補充員に採用され、郵政研修所初等部訓練対象者として入所し、所定の初等部訓練を経たうえ本務者に採用されるという臨時雇の本務者への途が制度化されていた。

(3) 昭和四一年一〇月に郵政省職員採用規程が制定されたが、右採用規程の運用についての第四条関係として、「郵政研修所初等部訓練を修了した者は、規程第五条に定める職員採用試験合格者とみなして取り扱うものとする」と明記されており、金人要第二三号要員関係事務処理要領について〔例規〕によれば、欠員後補充に関しては初級試験合格者、職員採用試験(甲)(乙)合格者の確保が困難な場合に「臨時補充員を採用するが、採用後は初等部前期訓練を実施し、訓練終了の翌日付けをもって事務官または事務員に採用される」、「なお、訓練対象外の臨時補充員については、その勤続期間が六か月以上のものについては、初等部前期訓練終了者および同未修了者との均衡を考慮し、事務官または事務員に採用する」とし、金人訓第四二四号通達「郵政研修所初等部訓練について」(甲第三八号証)は、「初等部訓練対象者は、各機関における新規採用職員で、別に定める本務者、臨時補充員および臨時雇(電話訓練に限る)とする」、「臨時補充員の研修生で、訓練を修了した者は職員採用試験合格者とみなして取り扱い、当該任命権者において、訓練修了後をもって臨時補充員を免じ、その翌日付をもって本務者に任命すること」と定めている。このことは、採用規程制定以降の本件係争当時においても、なお臨時雇から臨時補充員へ、臨時補充員から本務者へという途が依然として存続していたことを示している。

(4) 郵政事業における人員不足の実情は、昭和四一年以降も高度経済成長、高度化社会による情報量の激増による郵便物の増加にもかかわらず、物量に見合った定員の増加がなされなかったため、事態は好転しなかった。そこで、臨時雇は、アルバイトとは違い、基本的に本務者と同一の仕事をすることと責任の分担が要請され、そのような臨時雇が、臨時補充員又は本務者となるまで継続して雇用されるというのが実態であり、採用規程による職員採用試験実施後においても競争試験の例外としての選考が行われており、この選考において臨時雇としての実績が重視され、したがって、臨時雇は本務者への試用期間的性質をもって運用されていた。

(5) こうして本件閣議決定の内容は依然として守られず、臨時雇の常勤化現象が継続し、逐次本務者に採用されるという状況が続いたため、臨時雇に対しても一般健康保険、厚生年金保険、失業保険等を適用せざるを得なくなり、年次有給休暇も付与され、就労を拒否された中断期間についても労働基準監督署から休業手当を支払うよう勧告され、解雇予告手当を支払う必要も生じてきた。

(二) 被控訴人の労働関係の実態(控訴人の前記1の主張に対する反論)

(1) 昭和四六年一一月五日の説明

被控訴人は、昭和四六年一一月五日に野口課長代理から「日日雇入れ」「日雇」との説明も雇用期間が二か月以内あるいは二か月限度とする旨の説明も受けていない。年末年始のアルバイトは昭和四七年一月五日に一斉に解免されているが、被控訴人は雇用されてから二か月を経過した後も、現に反復継続して雇用され続けている。被控訴人は、安定した職場を求めていたのであり、二か月で解雇されるのであれば、就職していない。

(2) 昭和四六年一一月六日の任用手続

控訴人は、昭和四六年一一月六日の最初の任用の際に辞令簿を読み聞かせたと主張するが否認する。辞令簿に予定雇用期間の記載があることは認めるが、辞令簿上、事務処理的になされたに過ぎない。

(3) 昭和四七年一月五日の冬期請負

被控訴人は野口課長代理から冬期請負人の代人として勤務する旨の通知を受けたことはない。一月五日に代人として勤務したのであれば、一月四日で解免になるはずであるが、現に被控訴人は一月五日も臨時雇として雇用されており、辞令簿にも同日付で解免となっている。

(4) 昭和四七年三月三一日の出勤関係

被控訴人が右期日に出勤していることは受授表の同日の特配区欄に被控訴人の押印があることからも明らかである。控訴人は、被控訴人が特配区を担当したのは四月一日以降であると主張するが、被控訴人は三月三〇日から特配区を担当している。また、予定雇用期間も三月三一日までとされていたのであり、前日に解免される理由もない。なお、勤務記録書の三月三一日欄には被控訴人の押印がないが、その前の二八日から三〇日の押印は、同一機会に押印された形跡があり、二八日に担当者の松原から判を貸してくれといわれて渡した際に三〇日の解免の辞令欄にも押印されたものと思われる。三月三〇日に解免され、翌日給料だけを取りに行ったというのも不自然である。

(5) 再任用の手続

控訴人は、再任用の際に辞令簿に押印させていたから、これにより被控訴人の雇用継続の意思確認が行われていたと主張するが、右意思確認は、再任用手続に着手する前になされるべきものである。しかるに、福井局は、被控訴人の意思を事前に確認することもなく、当然の如く再任用手続をしていた。再任用の都度、辞令簿の内容を読み聞かせていたとの事実は否認する。控訴人は、被控訴人が担当者に印鑑を預けて押印してもらう場合があったとしても、辞令簿に予定雇用期間が明記されていることによってその告知がなされていることにかわりはないと主張するが、任用手続が形骸化していることを示すものである。

(6) 中断期間

非常勤職員の常勤化防止のため、臨時雇は二か月以内に定められた予定雇用期間にその雇用が限定され、右期間の更新も延長も、再任用も許されないこととされていたにもかかわらず、郵政省は臨時雇の常勤化の実態の下で、本件閣議決定を遵守していることを装うために考え出したのが中断期間であり、臨時雇を再任用する場合に三日ないし七日の間隔を置くことによって雇用の切断があったと主張する方便である。したがって、中断期間こそ郵政当局が雇用の継続性を否定し、臨時雇の常勤化を否認する最大の論拠であり、被控訴人の任免においてこれが否定されることはその雇用が常勤化していたことを明確にするものである。

(イ) 昭和四七年一月六日から同月九日までの中断期間

控訴人は、一月六日から同月九日までを中断期間と主張するが、被控訴人は六日から八日までは現実に稼働している(九日は日曜日である)。勤務記録書上、右期間は出勤となっていないが、五日欄も一旦記載された出勤表示が抹消され、「冬期請負より組替」と記載されていることからすれば、五日から八日の四日間は冬期請負人の代人として勤務した扱いになっていることも考えられる。右の期間は、アルバイトが全部辞め、本務者も年末年始の休暇の代替休暇をとる時期であり、一日に一二名から一三名の欠務者が発生しているのに対し、一月に入ってから差し出された年賀状が大量にあり、被控訴人が休める状況にはなかった。

(ロ) 昭和四七年二月二六日から同月二八日の中断期間

被控訴人は、昭和四七年一月一〇日付で同年三月九日までを予定雇用期間として任用されていたところ、二月二六日は私用で欠勤し、二七日は日曜日、二八日は東京での用事が長引いたため、同日野口課長代理に電話連絡して承認を受けて欠勤したものであり、右三日間は中断期間ではない。被控訴人の二月二六日以降の予定は予め決まっていたものではなく、予定雇用期間もきていないのに解免される理由はない。辞令簿、勤務記録書の記載は被控訴人が二月二八日も欠勤する旨の連絡をした後に、二月二五日解免、二六日から二八日を中断期間として、二月二九日任用の処理がなされたものである。また、控訴人は、二月二五日発令の長崎加代子、藤井亜紀子と被控訴人の同日解免の発令が一括決裁されていると主張するが、被控訴人の辞令と同文と記載された同月二八日付の吉田信子の辞令とが一括決裁されたものである。

(ハ) 昭和四七年四月二九日から同年五月一日の中断期間

右期間について集配課の辞令簿上は雇用されていないことになっているが、郵便課の辞令簿上任用されていることは明らかであり、福井局との雇用関係が継続していることは言うまでもなく、中断期間とはならない。

(7) 被控訴人に対する言動

(イ) 被控訴人に対し、将来本務者になれるであろうとの期待を抱かせるような言動をしたのは、野口課長代理や土井集配課長であり、いずれも責任ある職制である。野口課長代理は、被控訴人の採用時点で「臨時雇でもいいなら来てくれ、働いておればそのうち採用になる」と述べており、土井課長は、自ら陳述書(乙第一三号証)で、「私が福井郵便局集配課長として就任して以来八か月以上にわたって本務者となる見込みのない臨時雇を雇用したことはなかった」、また九か月雇用の臨時雇について「この場合は本務者として本採用になる見込みのある者だったので、臨時雇の常勤化というような問題もないので九か月雇用しました」と述べていることからも明らかなように、本務者となれる見込みのある者について長期間臨時雇として雇用していたのである。

(ロ) 被控訴人に健康診断を受けさせたことにつき、控訴人は臨時雇についても雇用が通算二か月を超えると健康管理のため受けさせていたものであり、「採用して差し支えない」との医師の診断結果は、臨時雇としてのものであると主張するが、雇用期間は二か月以内であるとの控訴人の主張と矛盾するものであり、右健康診断は雇用の継続を前提としたものであることは明らかである。

(8) 臨時雇と本務者採用の関係

控訴人は、本務者となるには採用試験に合格することが必要であり、臨時雇として継続雇用されることと本務者となることは関係がないと主張するが、両者に密接な関係があることは、前記土井課長の陳述によって明らかである。

(9) 被控訴人は、当審第一二回口頭弁論期日(昭和六二年一二月一一日)において、控訴人に対し、本件当時の配達郵便物受授表、超過勤務・夜間勤務及び祝日勤務命令簿兼整理簿(以下「超勤命令簿」という)の提出を要請したが、控訴人は昭和六三年一月二五日付準備書面で右各帳簿は現存しないと主張した。それにもかかわらず控訴人は、当審第一五回口頭弁論期日(昭和六三年七月二〇日)に超勤命令簿の一部(乙第四三号証)を提出した。これは福井局の帳簿管理の杜撰さを示すものであり、また、臨時雇の場合、超勤制度がないのに、超勤命令簿が存在することは、臨時雇についても本務者と同様に扱っていたことを示すものである。

2  主位的請求について

(一) 本件雇止めは、労働基準法二〇条、二一条の解雇予告の手続がなされておらず、無効である。

(1) 本件臨時雇も公労法二条一項二号イに規定する郵便等の事業に勤務する職員(現業郵政職員)であるが、右事業が公権力行使を伴う一般行政作用とは異なり、郵便等の経済的役務の提供を目的とする企業活動であるから、右職員の職務も当然公権力の行使とは関係なく、単に経済活動に従事することをその内容とするに過ぎず、かつ、右現業郵政職員は公労法の適用を受け、同法により労働組合法、労働関係調整法、労働基準法などの適用を受け(公労法四〇条一項一号)、労働条件に関して団体交渉権及び労働協約締結権を有すること(公労法八条)、しかも、非常勤職員については、任用期間に特に制限はなく、一日とすることも可能であるから、任用に関しては国と労働者は自由に取引することが認められていると解されるので、非常勤現業郵政職員に関する限り、その勤務関係形成の端緒は、国公法上の任用であるとしても、右任用は私法上の労働契約の一方当事者として相手方の申込に対してなす承諾以上の意味を持たず、私法上の契約原理の適用があると解すべきである。

(2) 仮に右主張が認められないとしても、常勤化した非常勤職員の個別的労働関係は労働法によって規制されるべきである。

(イ) 被控訴人の労働関係は、厚生年金保険法、健康保険法及び失業保険法の適用についていずれもその法定要件に達していた。すなわち、厚生年金保険法も健康保険法も臨時に使用される者であり、①日々雇い入れられる者或いは、②二か月以内の期間を定めて使用される者は適用除外としているが、①については一か月を超え、②については所定の期間を超えて引き続き使用されるに至ったときは、被保険者資格を有すると定めており(厚生年金保険法一二条一項二号、健康保険法一三条の二第二号)、被控訴人の場合、被保険者資格を有していた。失業保険についても、日雇労働者は、日雇労働者失業保険の対象者であり、失業保険の適用除外者とされていたが、前二か月の各月において一八日以上同一事業主に雇用された者はその翌月の最初から一般の失業保険の被保険者となることに定められており(失業保険法三八条の五第二項)、被控訴人の場合も一般の失業保険の被保険者資格を有していた。

本務者の場合、国家公務員共済組合法、国家公務員等退職手当法によって、公私傷病の保障、年金の保障、失業時の保障がなされているが、被控訴人のような臨時雇には公務災害を除いて適用が除外されており、その生存権の保障は一般民間の労働者と同様の社会保険諸法によるのが法の建前である。

(ロ) これら社会保険諸法が労働法の観点より常勤化した非常勤職員に適用されるのと同様に労働基準法の諸規定も、常勤化した非常勤職員の個別労働関係を強行法規として規制すると解すべきである。

公労法四〇条一項は三公社五現業の職員の労働関係について労働基準法が適用されるべき旨定めており、被控訴人のような郵政省の臨時雇についても労働基準法の適用があるというべきである。

特に、本務者の場合、全逓等の労働組合が組織されており、当局との団体交渉によって、すなわち集団的労働関係を通して個別的労働関係の労働条件の維持、改善を図る途があるが、臨時雇の場合はその現状に照らして、団結権を行使することは殆ど不可能であるから、臨時雇の労働関係において労働基準法が臨時雇の労働条件を最低限保護する機能は極めて大きい。

(ハ) このような臨時雇の労働関係が仮に公法関係であるとしても、常勤化した臨時雇の労働条件は、労働者保護の観点から労働法によって規制されるべきものであり、任免、分限等の基本的な勤務関係については公法的規制の下におかれる公法関係であると解するのは相当ではない。

(3) 仮に右主張も容れられず、臨時雇も形式上は公法的な規制を受けるとしても、それは全く形骸化されており、その任免の手続も極めて杜撰かつ疎漏であり、かつ、その実際の運用及び勤務の実態に着目すると期限の定めのない雇用として常勤化現象が顕著であり、その意味において実質上私法関係と目すべきである。

(4) 被控訴人の雇用関係が公法関係であるとしても、労働基準法の法理は労働関係一般に適用されるべき労働法の法理であり、解雇の諸法則が適用されるべきである。しかるに、福井局は被控訴人の雇止めについて労働基準法二〇条、二一条に違反して解雇予告の手続をとっていないから、本件雇止めは無効である。

(二) 本件雇止めは、郵政マル生による新入局員の事前選別により、被控訴人の思想・信条を嫌ってなされた差別的取扱であり、憲法一四条、一九条、労働基準法三条に違反する重大な違法行為であり、被控訴人の労働関係が公法関係であったとしても、違法・無効とされるべきである。

(1) 控訴人の主張する昭和四七年七月二日以降再任用しなかった理由は不合理である。すなわち、控訴人は、病気欠務中の本務者三名が全快し出勤することが予定されていたと主張するが、昭和四七年六月の病気欠務者は延べ一二〇名、同年七月は延べ一〇五名であって病気欠務による要員事情はほとんど改善されていない。また、当時高齢退職者が五名あり、その外に他局転出者が少なくとも一名いた。そのうえ、七月は夏期繁忙期に入るのであるから、福井局の要員事情が六月以前より改善されることはありえない。しかも、現実に福井局は七月にアルバイト以外の臨時雇を四名採用している。このほか、七月二三日には村井辰男を臨時雇として再任用している。したがって、七月二日以降の福井局の要員事情によれば、被控訴人の再任用が可能であったことは明らかである。右の事情に加えて、村井辰男は、六月一五日の臨時補充員の選考に被控訴人同様落ち、七月二三日実施の本務者の試験を受けているが未だその発表のない段階で、被控訴人の雇用期間よりも長期化していたのに、七月二三日にさらに予定雇用期間が更新され、また、福井局ではその後も九か月も雇用されている臨時雇もいることからすれば、被控訴人一人再任用されなかったのは、被控訴人の思想・信条を理由とする差別的取扱と考える他はない。

(2) 福井局は、昭和四七年六月一五日に被控訴人ら臨時雇に対し、臨時補充員採用のための面接を実施したが、その以前に密かに身上調査を行っている。右身上調査は、身元調査、実地調査、学歴調査及び経歴調査からなり、これらの調査項目の中には、①表彰及び退学、停学、訓戒等の処分の有無、②休学、中途退学の理由、③学校内外における団体活動の有無、団体名、地位、活動状況等運用次第で直ちに思想・信条による差別的取扱を許容する恐れのある事項も含まれている。そして、被控訴人は、高校時代に生徒会活動を活発にしており、三年次には副会長、書記をし、革新自治会の名の下に長髪許可運動を展開したり、卒業式の予行演習の際に「君が代をうたうのは何故か」と聞いたため、学校当局は被控訴人を卒業式に参加させず、卒業が三日延期された事実があり、また、昭和四六年一二月ころから社会党に出入りするようになり、県評のデモに随時参加しており、福井局は、これらの事実を身上調査によって了知していたと考えられる。それは、右面接において、「政治には興味がありますか。生徒会役員をやっていましたね。どんな活動をしたのですか。処分されていますね。何故ですか。学生運動はどう思いますか。」等の質問をされていることからも明らかである。

(3) 被控訴人は、臨時補充員の選考に落ちた以後、相談のために毎日のように全逓に出入りしはじめたころ、主事・主任の態度ががらりと変わり、挨拶をしても返事もしなくなった。これに対し、右選考に落ちた村井は「そんなことをしたら、ますますにらまれるから、自分は行かない」と言い、全逓に行かないようにしていた。その結果、村井は七月以降も臨時雇としての任用を更新され、被控訴人のみ臨時雇を解雇され、本務者にも採用されなかった。

(4) 以上の事実と、臨時雇は、本務者として働くうえでの業務能力等に支障があるなどの特段の事情がない限り、本務者に採用されており、かつ本務者に採用されるまで臨時雇としての雇用が継続していたという実情及び当時郵政当局が行っていた全逓組合に対する組織攻撃を目的とする「郵政マル生」の実態を併せ考えれば、本件雇止めは被控訴人の思想・信条を嫌ってなされたものであって、憲法一四条、一九条、労働基準法三条に反する違法・無効なものであることは明らかである。

(三) 被控訴人の雇用の実態からすれば、被控訴人は常勤化した非常勤職員の一人であり、被控訴人の雇用開始の実情に照らしても、被控訴人において雇用期間を更新するについて期待権を有したというべきであり、本件雇止めは、合理的な理由がないにもかかわらず、雇用期間の更新につき被控訴人の有する法的期待権を奪うものであって、信義則上も違法・無効である。

3  予備的請求について

(一) 福井局の人事管理の違法性

本件の如く臨時雇が常勤化し、被控訴人において雇用の継続を期待すべき実態が生じていたとしても、国公法上の制約から予定雇用期間を経過した以上、労働契約上の地位若しくは職員たる地位の確認という形での法的救済がなされないとすれば、一方的な雇止めに対して少なくとも国家賠償法一条による金銭賠償がなされるべきである。そして、同条にいう違法とは、厳密な法規違反のみを指すのではなく、当該行為が法律、慣習、条理ないし健全な社会通念等に照らし客観的に正当性を欠く場合を包含すると解すべきであり、福井局の被控訴人に対する人事管理は、本件閣議決定(任用予定期間が終了したときは、その者に対して引き続き勤務させないよう措置すること)に違反して、臨時雇の常勤化現象と本務者として採用されるとの期待感を生ぜしめたものである以上、これが違法性を有することは明らかである。

(二) 被控訴人の損害

福井局の右違法行為による損害は、単に他の就職の機会が奪われたことだけでなく、「雇用継続の期待」が侵害されたこと自体である。右「雇用継続の期待」は、本件が民間の労働関係であれば、法的に保護される期待権として解雇の法理が適用されるべき場合と同等の実態を持つものであるから、損害額の算定にあたっては、雇用継続の期待権を違法に侵害した場合、すなわち労働契約上の権利若しくは職員たる地位に相当する財産的な損害を認容すべきであり、その額は三〇〇万円を下らない。

理由

第一事実経過について

一郵政省における臨時雇の任用

<証拠>及び当事者間に争いがない事実によれば、次の事実が認められる。

1  公務員の定員は、昭和二四年以降定員法によって厳格に規制されることとなり、これは郵政省においても同様であったが、郵政省においては、年末年始や夏期繁忙期のほか、選挙等による臨時的繁忙期などもあり、一時的に定員内の職員で事務を処理しえない状況が生ずるだけでなく、年々増加する事務量に伴った定員が十分配置されていない状態が続いたため、昭和二八年一一月郵政省公達第一二七号「郵政省臨時補充員任用規程」を定め、定数内非常勤職員として、六か月以内の期間を定めて、臨時的任用を行うことができる臨時補充員任用制度を設けた。しかし、これも定数が定められていたため、実効をあげるに至らず、定員外の非常勤職員としての臨時雇が多数任用されていたことから、全逓は、昭和三四年ころから非常勤職員を本務化するよう要求し、これに対し郵政省は、全国約一万八〇〇〇名の非常勤職員を昭和三六年度中に本務化する方針を提示し、右本務化闘争は基本的に妥結するに至った。

2  このような状況の下で、郵政省は、昭和三五年九月二六日に任用規程を定め、非常勤職員として、①事務嘱託、②技術嘱託、③事務補助員、④技術補助員、⑤技能員、⑥臨時雇の六官職を置き(二条)、臨時雇については、中学校卒業程度以上の学力を有する者から(三条五号)、面接試験及びその他必要と認める方法で採用し(六条三号)、その任期は一日とするが、二か月以内において任命権者が定める期間を予定雇用期間とし、その期間内においては、任命権者が別段の意思表示を行わない限り、その任期は、更新されるものとした(五条)。そして、臨時雇は、年末年始、夏期等の臨時的繁忙、職員の一時的欠務等の場合の後補充要員としてのみ雇入れることができるものとされて(二条六号)、日日雇用の更新の最長期間を二か月とし、この期間をさらに更新することを予定しておらず、昭和三五年一〇月二〇日出された任用通達も「臨時雇については、いかなる場合においても予定雇用期間を更新し、または延長することはできないものとする」(五条関係2但書)とし、同年一〇月二〇日公用私信「郵政省非常勤職員任用規程の運用」も右趣旨を徹底させていた。

なお、右任用通達は、第五条関係4において、

(一) 予定雇用期間の満了日においては、当然退職となるほか、予定雇用期間内においても、任命権者が任期(一日単位)を更新しない旨の意思表示を行った場合には、その日の勤務終了をもって当然退職となるものとする。

(二) 予定雇用期間の中途において、雇用事由の変動等により解雇する場合は、臨時雇を除き、なるべく辞職願を提出させる等して、事務に問題の生じないようにすること。

(三) 労働基準法二〇条及び二一条の解雇予告については、事務補助員等であって予定雇用期間を一回以上更新した場合には、(一)とは関係なく解雇予告を必要とするものとなっているから注意のこと。

と定め、また、第六条関係4(2)において、臨時雇については、人事異動通知書の交付は省略し、辞令簿に押印させることによって、通知書の交付に代えることができるものとするとし、右辞令簿に押印することによって人事異動通知書の交付に代える制度は、後記の本件閣議決定後も改められることなく運用されている(もっとも、人事院規則八―一二第七五条により、非常勤官職に職員を採用する場合には、右通知書に代わる文書の交付その他適当な方法をもって通知書の交付に替えることができるとされている)。

3  以上のような社会的背景の下に、政府は、昭和三六年二月二八日に「定員外職員の常勤化の防止について」との閣議決定(本件閣議決定)をなし、定員外職員の実態を調査するとともに、今後定員規制の対象職員と同種又は類似の職員が定員規制の外に発生することを防止するため、同日以降常勤労務者を新規に任命しないことを定めるとともに、非常勤職員のうち、継続して日日雇入れることを予定する職員の雇用について、その常勤化を防止するため、次のような措置を実施することを定めた。

(一) 継続して日日雇い入れることを予定する職員については、必ず発令日の属する会計年度の範囲内で任用予定期間を定めること。

(二) 被雇用希望者に対しては、任用条件特に任用予定期間を示し、確認させること。

(三) 採用の際交付する人事異動通知書には、(二)の任用条件を明記するとともに、任用予定期間が終了した後には自動更新をしない旨をも明記すること。

(四) 採用の際は、必ず人事異動通知書を交付すること。ただし、任用予定期間が一か月を超えない職員の任用にあたっては、人事異動通知書に代わる文書の交付その他適当な方法をもって行うことができるものとする。

(五) 任用予定期間が終了したときには、その者に対して引き続き勤務させないよう措置すること。

そして、昭和三七年一月一九日、前記閣議決定に基づき、行政管理庁で実施した定員外職員の実態調査の結果、国家行政組織法一九条の定員に該当するものは、昭和三七年度の定員に繰り入れることとし、これにより定員繰入れの措置は終了したものとする旨の閣議決定「昭和三七年度の定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」がなされた。

4  しかし、郵政省はその後昭和三六年七月二四日、基本通達を定め、予定雇用期間を二か月として雇用した者を、その予定雇用期間の満了によりいったん退職させ、改めて採用する場合には、少なくとも七日間の間隔(中断期間)を置くものとし、「一か月以上の長期欠勤者または組合専従者の後補充要員として雇用する者」等については、退職の日から再採用の日までの間隔を三日まで短縮することができるとし、さらに同年一〇月一九日運用通達により、三日まで短縮できる場合として、「諸般の事情で退職の日から再採用の日までに七日間の間隔を置くことが極めて困難な者」を追加した。

5  こうして臨時雇として採用された者が、中断期間を置いて再採用され、相当長期に及ぶ事態も生じ、その間に臨時補充員に採用され、郵政研修所初等部訓練対象者として入所し、所定の初等部訓練を経て本務者に採用される者や職員採用試験或いは選考に合格して本務者となる者も少なくなかった。その後、郵政省は、昭和四一年一〇月二〇日採用規程を制定し、一般職に属する郵政職員の採用資格、採用方法等を定め、国家公務員採用試験合格者から採用するほかは、職員採用試験及び職員採用選考により採用することとした。しかし、同日付「郵政省職員採用規程の運用について」(郵人人第五四〇号)の人事局長通達により、郵政研修所初等部訓練を修了した者は、右規程五条に定める職員採用試験合格者とみなして取り扱うものとすると定め、従前の取扱を残した。もっとも、臨時補充員の採用は選考により行われ、初等部訓練対象者についても入所選考を経て入所が決定され、入所した研修生についても入所時学力テストがなされ、とくに成績不良の者については研修生を免ぜられることもあり、研修成績不良のため初等部訓練を修了できない場合もあり、臨時雇が当然に臨時補充員に採用され、初等部訓練を経て本務者に採用されるというものではない。

二被控訴人の福井局における任用状況

1  控訴人は、公共企業体等労働関係法(公労法)二条一項二号イに定める国の経営する企業である北陸郵政局管内福井郵便局(福井局)を経営していること、被控訴人は、昭和四六年一一月六日、右福井局に臨時雇として任用され、約八か月間集配課及び郵便課の業務に従事した後、昭和四七年六月二九日、控訴人から同年七月一日をもって予定雇用期間が満了する旨を告げられ(本件雇止め)、同月二日以降任用されていないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そこで、以下、被控訴人の福井局における任用状況について判断する。

2  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、前記各証拠中、右認定に反する部分は採用しない。

(一) 被控訴人が福井局に任用されたときの状況

(1) 被控訴人は、昭和四五年三月高校を卒業し、その後東京で日本電子専門学校に通いながら大学受験の準備をしていたが、家庭の事情で昭和四六年八月ころ福井市に帰り、一時福井市外の工場で働いていたが、同年一〇月末ころ退職し、福井市内で安定した就職先を探していたところ、以前に郵便局の外務職員募集のポスターを見たことを思い出し、同年一一月四日、福井局の集配課を訪れ、応対に出た同課の野口課長代理に就職の希望を申し出た。これに対し野口課長代理は、同年の外務職員採用試験は既に終了しており、臨時雇としてなら雇用する余地がある旨を告げ、翌日来局するよう告げた。

(2) 野口課長代理は、被控訴人から採用申し出があったことを土井義男集配課長に告げ、当時、病気・出張・訓練講習による欠務者が五名おり、年末年始の繁忙期をひかえて、経験を積んだ者を必要としていたことから、庶務課を通じて雇用伺を局長に提出し、その決裁により採用することになった。そして、同課長代理は、翌五日に再び同課を訪れた被控訴人に対し、仕事は集配課の郵便配達で、給料は一日一二四〇円であり、雇用期間を二か月とする臨時雇であることや勤務時間等の説明をし、これを了承した被控訴人に翌六日から出勤するように告げた。

(3) 被控訴人は、翌六日、同課に出勤し、野口課長代理から、局長決裁済の辞令簿を示され、これに押印したが、右辞令簿には、「臨時雇を命ずる。日額一二四〇円を給する。集配課勤務を命ずる。予定雇用期間は昭和四七年一月五日までとする。」と記載されていた。

(二) 被控訴人の福井局における臨時雇としての任免の経緯

被控訴人の任命及び解免については、いずれも局長の決裁を受け、発令内容を記載した辞令簿に被控訴人が押印することによってなされていた。辞令簿上の発令内容は、任命時は、前記昭和四六年一一月六日の発令内容と同様の形式であり、解免時は、予定雇用期間満了による場合は「予定雇用期間満了により臨時雇を免ずる」、右期間途中の解免の場合は「臨時雇を免ずる」と記載されていた。そして、辞令簿上の任免の経過は次のとおりであり、集配課及び郵便課で重複任用されていた期間は、午前中は集配課、午後は郵便課で勤務していた。なお、再任用については、解免の日に被控訴人に告知されていた。

〔集配課〕

(1) 昭和四六年一一月六日任用、予定雇用期間昭和四七年一月五日、日給一二四〇円

昭和四七年一月五日、冬期請負人南部兄治の代人として勤務した取扱、実際の業務は従前と同じ、日額一五五〇円

同日、予定雇用期間満了により解免

(2) 昭和四七年一月一〇日任用、予定雇用期間同年三月九日、日給一二四〇円

同年二月二五日、予定雇用期間途中で解免

(3) 同年二月二九日任用、予定雇用期間同年三月三一日、日給一二四〇円

同年三月三〇日、予定雇用期間途中で解免

(4) 同年四月一日任用、予定雇用期間同月二八日、時間給一八五円

同年四月二八日、予定雇用期間満了により解免

(5) 同年五月二日任用、予定雇用期間同年七月一日、時間給一八五円

同年五月九日、予定雇用期間途中で解免

(6) 同年五月一〇日任用、予定雇用期間同日一日、日給一二四〇円

同日、予定雇用期間満了により解免

(7) 同年五月一一日任用、予定雇用期間同年七月一日、時間給一八五円

同年五月一二日、予定雇用期間途中で解免

(8) 同年五月一三日任用、予定雇用期間同年七月一日、日給一二四〇円

同年五月二七日、時間給一八五円に変更、ただし、辞令簿上の記載はない

同年六月二日、日給一二四〇円に変更、ただし、辞令簿上の記載はない

同年七月一日、予定雇用期間満了により解免

〔郵便課〕

(1) 昭和四七年四月一日任用、予定雇用期間同年六月三〇日、時間給一九五円

同年四月七日、予定雇用期間途中で解免

(2) 同年四月二〇日任用、予定雇用期間同年六月一九日、時間給一九五円

同年五月四日、予定雇用期間途中で解免

(3) 同年五月二〇日任用、予定雇用期間同年六月一九日、時間給一九五円

同年六月二日まで郵便課で勤務、その後同課での勤務はないが、辞令簿上解免の手続はなされていない

(三) 被控訴人の職務内容等

(1) 被控訴人の集配課での職務は、時間給で雇用されていた期間を除き、市内三六区(昭和四七年二月ころ、三五区に名称変更)を担当し、同区に差し出された手紙等を区分し、配達する順序に整理(順立て)して配達するもので、その限りでは本務者の仕事と同内容のものであったが、同区は住居表示が整備され、郵便物も比較的少ない初心者向きの区域であり、配達担当区は固定されていた。

(2) 集配課に時間給で雇用されていた期間は、特配区と呼ばれる県庁、市役所等の大口配達先の配達を担当し、郵便課での勤務は、郵便物を都道府県別に分類する作業であった。

(3) これに対し、本務者は、市内区五か所、市外一ないし二区で構成される班に所属し、各区を循環して担当し、配達業務の外に配達原簿の転出・転入等の整理業務も担当しており、日曜・祝日の勤務割当があったが、臨時雇には割当られていなかった。もっとも、年末年始等の繁忙期には、臨時雇にも休日出勤や超過勤務が命じられることもあった。また、本務者については適宜業務研究会が持たれていたところ、臨時雇はこれに参加する業務はなかったが、被控訴人は野口課長代理の勧めもあって、自主的に参加していた。

(4) なお、本務者に貸与される制服については、退職者から返戻されたりして在庫がある場合に限り、臨時雇にも中古品が貸与されることになっていたが、被控訴人には冬服と盛夏上着の貸与を受けていた。

(5) 福井局には、被控訴人のような勤務形態の臨時雇のほかに、年末年始等の繁忙期に限って雇用される臨時雇(アルバイト)がいたが、アルバイトは、順立てされた郵便物を配達するだけであり、被控訴人らのような臨時雇に比べて業務の範囲が限定されており、制服の貸与を受けることもなく、補食券を配られることもなかった。

(四) 福井局における臨時雇の本務者化の状況

(1) 福井局において、昭和四七年一二月一日以前の一〇年間に非常勤職員(臨時雇又は臨時補充員)から本務者になった者は、郵便課で四名、集配課で四九名いるが、郵便課の四名はいずれも国家公務員初級職試験合格者であり、集配課では、昭和四二年四月一日までに本務者になった一二名は全員、臨時補充員から郵政研修所初等部訓練修了者であり、同日以降に本務者になった三七名中三五名は職員採用試験(乙)合格者であり、他は初級職試験合格者と初等部訓練修了者(昭和四六年六月一八日採用)が各一名である。

(2) 福井局における昭和四六年一一月一日から昭和四七年一二月一日までのアルバイトを除く非常勤職員の採用者数は、集配課で二九名、郵便課で二七名であるが、集配課の二九名中、右の期間内に本務者になった者は一一名でいずれも職員採用試験(乙)合格者であり、他の一八名はいずれも予定雇用期間の満了により解免となっている。本務者になった者のうち、非常勤職員として勤務した期間は最長が一年、最短が二か月、解免された者ではその期間は最長が七か月、最短が二か月である。なお、郵便課では本務者になった者はおらず、全て予定雇用期間の満了により解免されている。

(五) 集配課における上司・同僚の言動等

被控訴人は、安定した職場を求めて郵便局に勤務するようのなったものであり、当初は臨時雇であったが、将来本務者なる希望を持っていた。そして本務者の多くが臨時雇を経験していたこともあり、長く臨時雇として勤務していれば、そのうちに本務者になるであろうという見方をする者もいたが、漠然とした言い方であり、もとより責任ある者の発言ではない。そのほか職場内で同僚等に次のような言動がみられた。

(1) 被控訴人は、福井局に入局して一週間位したころ、中古の制服を貸与されたが、その際、真面目にやって本務者になれば、新品が貰えると言われた。

(2) 昭和四六年一一月下旬ころ、既に外務職員採用試験に合格しているが採用になっていない者と、被控訴人らのようにまだ試験に合格していない臨時雇を含めて開かれた懇談会で、土井集配課長から、試験に受かっても採用になるのは全員が同時になるわけではない、採用の順番は全部局側の権限だから文句を言わないこと、真面目にやっていれば採用になるから頑張ってくれなどと言われた。

(3) 昭和四七年二月三日、野口課長代理の指示で、被控訴人は健康診断を受けたが、その結果作成された「採用時身体検査票」には、「採用して差し支えない」との記載がされており、右健康診断の際に、同僚の本務者から「いよいよ採用だな」と言われた。

(4) 同年三月二九日ころ、土井集配課長から、被控訴人に担当させる仕事がなくなったが、今後どうするかと尋ねられ、被控訴人はずっと局で働きたいとの意向を伝えたところ、同課長から試験は六月か七月になるけれども、それまで頑張ってくれ、四月から違う仕事になると言われた。

(5) 同年五月ころ、職員で構成する郵政クラブに、どうせ採用になるんだから、そのときのために来るように誘われた。

(6) 福井局では、高齢退職などのため、本務者に欠員が生じていたため、金沢郵政局に臨時補充員の採用を上申していたところ、採用定員四名が示達されたので、同年六月一五日にその採用選考を実施したが、当時集配課で臨時雇として雇用されていた被控訴人を含む六名全員がその対象とされた。福井局では、右対象者に知らせることなく、事前に身元調査、学歴調査等を実施したうえ、当日突然面接を受けさせた。その結果、被控訴人と同じころ臨時雇に採用され、その後任免を繰り返していた村井辰男と被控訴人の二人が不合格となったが、その後、土井集配課長は、不合格となった被控訴人らも含め臨時雇を集め、翌月に予定されていた外務職員採用試験の心構えを説明したり、作文を書かせたりした。

3(一)  最初の任用における説明

被控訴人は、昭和四六年一一月五日にも発令日の同月六日にも、福井局から臨時雇としての雇用期間が二か月以内あるいは二か月限度とする旨の説明は受けておらず、かえって、名目上は臨時雇とするが、外務職員採用の際には優先的に採用する旨告げられ、これを前提として働くことにしたと主張するが、福井局の担当者が被控訴人に対し、名目上の臨時雇であるとか、優先的に採用するなどの説明をしたと認めるに足る証拠はなく、本年度の外務職員採用試験は終了し、臨時雇としてならば採用できるとの野口課長代理の説明及び辞令簿の記載内容から予定雇用期間を二か月とする臨時雇であることは明らかに理解できる状況にあったことが認められる。被控訴人は原審及び当審における本人尋問において、安川主事及び野口課長代理から、働いておればそのうち採用になる、真面目にやっていれば採用になるなどと言われたと述べるが、採用できない。仮にそのような発言があったとしても、採用試験が済んだため臨時雇としてしか採用できないという説明と併せ考えれば、採用試験に合格することなく、臨時雇をしているだけで当然に本務者に採用になる趣旨でないことは明らかであり、被控訴人においても十分理解できる状況にあったというべきである。

したがって、福井局における最初の任用行為に、被控訴人に対し臨時雇の地位につき誤解を与えるような人事管理上の義務違反があったとは認められない。

(二)  昭和四七年一月五日の冬期請負人の代人への組替え

控訴人は、同日は被控訴人の臨時雇の予定雇用期間内であったが、冬期請負人南部兄治から当日業務を休みたいとの申し出があり、その代人の確保を依頼してきたので、被控訴人の承諾を得て、同人を代人に斡旋したと主張する。そして、<証拠>は右主張に副うものであるが、前記乙第一二号証(勤務記録書)によれば、同日欄には被控訴人の出勤印が押され、出勤・退庁時間等が記載され、所属長・課長・主事・主任の決裁印も押されたうえで、この欄が抹消されており、しかも、賃金支給額も一旦同日臨時雇として勤務したものとして計算され、その後に一日分減額訂正していることが認められる。右事実からみれば、後日になって、被控訴人を当日だけ代人となった扱いとし、それに符合させるため、そのような訂正が行われた可能性があり、右野口の供述は採用できない。しかし、このような処理をしたのは、冬期請負人の賃金が被控訴人の臨時雇のそれより高かったため、被控訴人にこれを得させるべく有利な取扱をしたがためであって、そのために被控訴人に何ら不利益となるものではないから、これをもって人事管理上に問題があったとは言い難い。

(三)  昭和四七年一月六日から同月九日の中断期間

被控訴人は、同月六日から八日までは現実に勤務しており、九日は日曜日であり、勤務記録書に出勤印が押されていなくても、一月五日と同様に冬期請負人の代人として勤務した扱いとなっている可能性もあると主張する。

しかし、<証拠>によれば、冬期請負人であった南部兄治が欠勤したのは五日だけであり、その後続けて八日まで欠勤したことは認められず、被控訴人がその間、同人の代人として勤務することはありえない。

そして、勤務記録書上も右期間は斜線を引いたうえ解免と記載されており、被控訴人の出勤印も押されていない。被控訴人がその間出勤していたのであれば、一〇日以後に出勤印を押す際に解免の記載に気付き、当然問題となるはずであるのに、そのような事態を窺わせる証拠もない。

また、<証拠>によれば、被控訴人は一月五日付で「予定雇用期間満了により臨時雇を免ずる」との辞令が記載された辞令簿に請印を押しており、六日から八日までの郵便物の受授は被控訴人以外の者がしており、被控訴人に対し右期間の賃金が支払われていないことが認められ、右事実からも被控訴人が右期間勤務していないことは明らかである。

したがって、被控訴人の右主張は採用できず、右期間は中断期間であると認められる。

なお、被控訴人は、五日と七日と一〇日の辞令が一括処理されていることを不自然であると主張するところ、辞令簿上そのような処理がされていることは認められるが、<証拠>によれば、、福井局においては、解免時に次の任用が決定している場合には解免と同時に次の雇用伺を提出するため、右のように後日の発令分について一括決裁されることがあると認められるから、被控訴人の右主張も理由がない。

(四)  昭和四七年二月二六日から同月二八日までの中断期間

右期間被控訴人が勤務していない(ただし、二七日は日曜日)ことは当事者間に争いがないところ、控訴人は、右期間は被控訴人が私用により休むことになったため、予定雇用期間内であったが、二五日付で解免し、二六日から二八日までを中断期間とすることにし、その旨を被控訴人に通知したと主張し、当審証人野口崎三郎の証言は右主張に副うものである。

しかし、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、家庭の事情で二五日午後の勤務終了後東京に行くことになり、二六日朝、野口課長代理に同日の休暇を申し出、二八日にもその用件が終わらなかったため、同日早朝、再び東京から福井局に電話連絡し、その日も休暇を取ることになったことが認められる。被控訴人の右の予定は予め分かっていたことではないから、二五日に控訴人の主張するような処理をすることは不可能であり、二六日から二八日までが中断期間とされ、被控訴人がこれを了解していたのであれば、被控訴人においてわざわざ東京から連絡することもないはずであり、前記野口の供述は採用できない。

前記乙第一二号証によれば、勤務記録書の二六日欄には出勤時間・退庁時間・勤務時間が記載され、所属長・課長・主事・主任の決裁印も押されており、二五日中に解免が決定していたことと矛盾するものであり、また、二八日欄の出勤印欄に斜線が引かれているのも他の中断期間の処理と一致せず、被控訴人が休暇を取った後に右期間を中断期間として設定したことを窺わせるものである。

そして辞令簿上、二五日に解免、二九日に任用の発令がなされていることは、先に認定したとおりであるが、二五日の解免の発令については、発令年月日欄の日付の記載が削り取られ、その上に二五日と記載してあり、当初の記載は二八日であったと窺われ、これも被控訴人が二八日に休むことが分かってから、この期間を中断期間として設定したことを示すものである。

控訴人は、二五日の解免の発令は、同日の長崎・藤井の発令と同時に決裁されていると主張するところ、辞令簿上そのような処理がなされていることは認められるが、常に発令日前に決裁印が押されていたと断定できるものでもなく、これのみによって控訴人の主張を採用することはできない。

しかし、辞令簿の二五日欄及び二九日欄には被控訴人の請印が押されているから、右期間を中断期間とすることについて控訴人に事前の連絡がなかったとしても、少なくとも二九日に再任用される段階で被控訴人は右のような処理がなされていることを了知しているはずであるから、辞令簿の処理はともかく、右期間が雇用のない期間である事実を動かすものではない。

(五)  昭和四七年三月三一日の出勤の有無

被控訴人は同日出勤したと主張するところ、<証拠>によれば、辞令簿・勤務記録書・賃金台帳上・当時の臨時雇全員につき、三〇日で解免しており、三一日は勤務しておらず、したがって同日の賃金も支払われていないことが認められるから、被控訴人の右主張は採用できない。

確かに受授表によれば、同日の特配区の配達担当者受領印欄に被控訴人の押印がなされていることが認められるが、<証拠>によれば、受授表に受領印欄に押印洩れがあり、後日気付いて担当者に押印させる際に、四月一日以降被控訴人が同区を担当していたことから、誤って被控訴人に押印を求めたことによるものであることが認められるから、これによって被控訴人の主張が裏付けられるものではない。

(六)  昭和四七年四月二九日から同年五月一日の中断期間

被控訴人は、右期間も中断期間であると主張するが、前記認定のとおり、被控訴人は集配課においては右期間雇用されていないが、郵便課で任用されているから、右期間が中断期間とならないことは明らかである。

(七)  超過勤務等

被控訴人は臨時雇には超過勤務の制度がないと主張するが、人事院規則一五―四第一項は、非常勤職員に対する正規の勤務時間を規定しているだけであって、やむを得ない事由のある場合に超過勤務を命ずることまでを禁じているものと解するのは相当でないから、被控訴人の右主張は採用できない。その他被控訴人の福井局における任用の実情についての主張は、前記認定判断に照らしていずれも理由がなく採用できない。

第二主位的請求について

一現業郵政職員の任用行為の性格

1  公労法二条一項二号イ、同条二項二号によれば、郵政事業に従事する職員(現業郵政職員)は、一般職に属する国家公務員たる身分を有するところ、国公法二条四項は、一般職に属するすべての職に同法の規定を適用するとしているが、他方、同法附則一三条は、同法一条の趣旨に反しない限り、その職務と責任の特殊性に基づいて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則を以て、これを規定することができると定め、公労法四〇条は、現業郵政職員につき、国公法の規定のうち、一定範囲のものの適用を除外しているが、同法の各規定中、勤務関係の根幹をなす試験及び任免、分限・懲戒及び保障、服務に関する各規定の適用は除外しておらず、これらの規定に基づく人事院規則八―一二(職員の任免)等の規定も適用され、郵政省設置法二〇条も現業郵政職員の任免等は国公法によるものと定めている。

2  もっとも、郵政事業は、国が経営するものとはいえ、公権力の行使を伴う一般行政作用とは異なり、郵便等の経済的役務を提供する企事活動であり、これに従事する現業郵政職員に適用される公労法は、労働条件に関する事項につき団体交渉の対象として、労働協約の締結を認める(同法八条)等、国公法が全面的に適用される非現業の国家公務員とは異なり、ある程度当事者の自治に委ねられている側面がある。

3  しかし、郵政事業は国の公共的目的にかかわる事業であり、そこに勤務する現業郵政職員の職務も公共性を有するものであり、国民全体の奉仕者として勤務することを要請される特別な地位にあるのであって、基本的な勤務関係は国公法、人事院規則等の公法的規制の下に置かれているから、その勤務関係は基本的に公法上の関係であると解する(最高裁昭和四九年七月一九日判決・民集二八巻五号八九七頁)のが相当であり、これを私法上の契約関係であるとする被控訴人の主張は採用できない。

二臨時雇の任用行為の性格

1 一般職に属する国家公務員につき、国公法六〇条に定める臨時的任用以外に、期限付任用を行うことは、同法が、国民に対し、公務の民主的かつ能率的な運営を保障することを目的とし、職員の身分保障規定等を定めていることからすれば、公務の能率的運営を阻害し、身分保障の趣旨に反する場合には許されないというべきであるが、同法が職員の期限付任用を禁じていないこと、同法附則一三条が同法の特例を設けることを許しており、人事院規則八―一二(職員の任免)は、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならないとするが、一定の要件の下で常勤職員についても任期を定めた任用を許容し(一五条の二)、日日雇い入れられる職員の任用の更新及び任期満了による当然退職(七四条一項三号、二項)について定め、人事院規則八―一四(非常勤職員等の任用に関する特例)、同一五―一二(非常勤職員の勤務時間及び休暇)等において期限付任用を前提とする規定が設けられていること等からすれば、右のような弊害がない場合には、期限付任用も一般的には禁止されていないものと解される。したがって、非常勤職員を期限付で任用することは、その期限が一日であっても許されるものであり、郵政省において、任用規程により任用される臨時雇は、適法な任用類型と認められる。

2 そして、国公法二条四項は、一般職に属するすべての職に同法を適用すると定め、常勤職員、条件付任用者(同法五九条)、臨時的任用者(同法六〇条)を区別せず、また同法附則一三条に基づき人事院規則により任用される非常勤職員についても特に区別することなく、国公法を適用することとされ、郵政省設置法二〇条も常勤職員と非常勤職員を区別することなく、現業郵政職員の任免等につき国公法の規定によることを定めている。もっとも、人事院規則等により、国公法附則一三条による特例として、臨時雇につき、職階制、条件付任用期間、勤務評定、健康診断、営利企業への就職等について異なる取扱が定められているが、臨時雇についても基本的身分関係については、国公法や人事院規則の適用が除外されているわけではないから、臨時雇についても、その基本的勤務関係である任免等に関しては、国公法、人事院規則等の公法的規制が適用される公法関係と解するのが相当である。

3 被控訴人は、非常勤現業郵政職員については、任用期間に特に制限はなく、国と労働者は自由に取引することができるから、右勤務関係については、私法上の契約原理が適用されるべきであると主張するが、右のとおり非常勤職員の勤務関係も基本的には公法関係というべきであるから、右主張は採用できない。

三予定雇用期間の更新と当然退職

1 人事院規則八―一二第七四条一項三号は、任期を定めて採用された場合において、その任期が満了した場合は、その任用が更新されない限り、当然退職する旨規定し、同条二項は、右期限付任用につき、「日日雇い入れられる職員が引き続き勤務していることを任命権者が知りながら、別段の措置をしないときは、従前の任用は、同一の条件をもって更新されたものとする」と定めている。

2 そして任用規程五条は、非常勤職員の任期は一日とし、非常勤職員中の臨時雇については、二か月以内において任命権者が定める期間を予定雇用期間とし、当該期間内においては、任命権者が別段の意思表示を行わない限り、その任期は更新されるものとする旨規定しているところ、右規定は、予定雇用期間内においては、任命権者が更新拒絶(雇止め)をしない限り、当然更新されるが、右期間満了の場合は、当該職員は任命権者の何らの行為を要せずに当然に退職することを予定し、右期間満了後は、再任用をする場合はともかく、当然には更新しないことを事前に宣言しているものと解される。

3 したがって、任用規程五条の予定雇用期間の定めは、人事院規則八―一二第七四条二項の「別段の措置」に当たるというべきであるから、臨時雇は、任命権者の定めた二か月以内の予定雇用期間の満了により、当然に退職するものと解するのが相当である。

四期限付任用の反復更新と任用類型

1 被控訴人は、臨時雇としての任用が反復更新され、八か月にも及んだことを捉え、被控訴人の任用は期限の定めのない任用になったと主張する。

2 しかし、被控訴人は、前記のとおり人事院規則八―一二第七四条、任用規定五条に基づく期限付の非常勤職員として任用されたものであり、期限の定めのない非常勤職員という任用類型は存在せず、このような臨時雇の任用が反復されたからといって、期限の定めのない常勤職員の任用に転換すると解することは、任用の要件、手続の全く異なる行政処分への転換を認めることになり、到底許されないものといわざるを得ない。

3 また、本件臨時雇については、前記のとおり雇止めの意思表示がなくても予定雇用期間の満了によって当然退職することが法定されているものであり、しかも、任用の要件、手続、効果等が法定され、当事者双方の合理的意思解釈によって任用の内容を定めることが許されない公務員の任用という行政処分について、その雇止めに解雇の法理を適用する余地はないものというべきである。

4 したがって、期限の定めのない雇用関係が存続しているという被控訴人の主張は採用できない。

五本件臨時雇と労働基準法二〇条、二一条の適用

1 被控訴人は、日日雇用者あるいは二か月以内の期間を定めて使用される者についても、その雇用関係が継続し、一定の要件を満たすに至った場合は、厚生年金保険法・健康保険法・失業保険法が適用されるところ、被控訴人は、いずれもその資格要件を有していたと主張し、右事実は当事者間に争いがない。しかし、被控訴人は、右各保険法の適用があることを根拠として、労働基準法の諸規定も常勤化した非常勤職員の個別労働関係を強行法規として規制すると主張するが、右各社会保険法は、労働者の生活の安定等を目的とするものであり、現業郵政職員である臨時雇の任免等の勤務関係を規制する国公法等と法目的を異にするものであって、被控訴人の右主張は採用できない。

2 ところで、国公法附則一六条は、一般職に属する国家公務員につき、労働基準法等を適用しない(もっとも昭和二三年一二月三日法律第二二二号による改正附則三条は、別に法律が制定実施されるまでの間、国公法の精神に抵触せず、かつ、同法に基づく法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法等を準用するとしている)と定めているが、同法附則一三条による特例として、公労法四〇条一項一号、二号、二項は、現業郵政職員につき、前記附則一六条及び改正附則三条を適用しないと定めているから、本件臨時雇については、国公法等の公法的規制に抵触しない限りにおいて労働基準法の適用があるものというべきである。

3 そして、労働基準法二一条但書、二〇条一項は、日日雇い入れられる者が一か月を超えて引き続き使用されるに至った場合、又は、二か月以内の期間を定めて使用される者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、使用者が当該労働者の雇用を中止するためには、少なくとも三〇日前にその旨の予告をするか、三〇日分以上の平均賃金を支払わなければならない旨規定している。

4 しかし、前記のとおり、臨時雇は予定雇用期間の満了により当然退職するものであるから、雇止めの予告がなされなかったからといって、任命権者の意思に反して任用の更新を擬制することは国公法及び人事院規則の規制に反する結果となるから相当でなく、労働基準法二〇条を適用して、雇止め予告手当の支給を求め得ると解する余地があるとしても、その場合でも、雇止めの意思表示が右手当の支給を伴わなかったことを理由に任用更新の効果が生ずると解すべきではない。

したがって、予告手続をとっていない本件雇止めは無効であるとの被控訴人の主張は採用できない。

六差別的取扱との主張について

1  被控訴人は、本件雇止めは専ら被控訴人の思想・信条を理由とする差別的取扱としてなされたものであるとして、憲法一四条、一九条、労働基準法三条に違反して無効であると主張する。

2  しかし、本件雇止めは、いわゆる解雇ではなく、被控訴人は、予定雇用期間満了により当然に退職しているのであり、その後の再任用は、任命権者の行う一方的行政処分としての新たな任用行為であり、被控訴人において任用という行政処分を要求する権利はなく、このような任用行為は、労働基準法三条によって規制されるものではないと解すべきである。

3  また、被控訴人は、臨時雇としての実績が職員採用試験において重視されており、臨時雇は本務者採用の試用期間的性格を持っていたと主張するが、かかる事実を認めるに足る証拠はない。

4  したがって、仮に、福井局が、前記認定の昭和四七年六月一五日実施の臨時補充員の採用選考の前に行われた被控訴人の身元調査や学歴調査等の結果を考慮して、再任用をしなかったとしても、これを違法・無効とすることはできないから、再任用をしなかった理由について判断するまでもなく、被控訴人の右主張は理由がない。

七期待権侵害の主張について

1  被控訴人は、その雇用が常勤化していた実態から、被控訴人において、雇用期間の更新を法的に期待すべき状況にあったとして、合理的な理由のない本件雇止めは違法・無効であると主張する。

2  しかし、被控訴人は、当初の採用時に、野口課長代理から本年度の外務職員採用試験が終了しているから臨時雇としてしか雇用できないといわれていること、昭和四六年一一月下旬ころに行われた臨時雇の懇談会での土井課長の試験に受かっても採用になるのは全員が同時ではない旨の発言、臨時補充員採用選考に不合格となった後の外務職員採用試験についての同課長の説明等から判断しても、被控訴人において、単に臨時雇を継続していれば自動的に本務者になれるわけではなく、採用試験に合格する必要があることは容易に理解しうるところであり、昭和四二年四月一日以降、郵政研修所初等部訓練終了により臨時雇から本務者に採用された者は一名に過ぎず、それ以外は全て職員採用試験(乙)等の合格者であり、臨時雇として任用されていて、予定雇用期間の満了により解免され、福井局を去った者も多数おり、臨時雇の職務内容も本務者のそれと全く同一のものであったわけでもないから、被控訴人が雇用されていた時期には、被控訴人の主張するような臨時雇の本務者化の実態自体存在していないというべきであり、被控訴人が職員採用試験に合格することなく、自動的に本務者になれるとの期待を抱いていたとは到底解されない。

3  また被控訴人に対し、更新を期待させるような状況があったとしても、臨時雇の常勤化現象はそもそも法の予定していないところであって、任用規程及び任用通達も臨時雇の任用の更新は予定していないのであり、被控訴人のいう更新の期待というのは、新たな任用を意味するものであるところ、任用行為は、一定の要件等の下に一方的に行われる行政処分であって、予定雇用期間の満了によって当然退職した被控訴人において、再任用を要求する権利はなく、任命権者にこのような義務を認めることもできない。仮にこのような義務を認めるとすれば、結局、臨時雇を期限の定めのない常勤職員に任命したのと同一の結果を招来するのであって、任用の要件、手続、効果等を法定する国公法等の規定の趣旨を潜脱することになるものというべきである。

しかも、国公法六〇条四項は、「臨時的任用は、任用に際していかなる優先権をも与えるものではない」と規定しているところ、本件臨時雇は右の臨時的任用ではないが、同様に国公法の規制下にある本件臨時雇についても、右の趣旨に反する取扱は許されないものというべきであって、この点からも、被控訴人の期待は単なる主観的予測ないしは希望であって、法的に保護された権利とは言い得ない。

4  また、被控訴人の期待が、職員採用試験に合格するまで臨時雇として再任用が繰り返されるとの期待であるとすれば、任命権者は被控訴人が合格するまで再任用を繰り返さなければならないことになるところ、そのような義務がないことは多言を要しないところであって、右主張が理由のないものであることはいうまでもない。

5  もっとも、単なる主観的願望に過ぎない期待であったとしても、違法な手段であらぬ期待を抱かせ、事後に実現不能を知らしめて失望、落胆に陥れるというが如き不法性が認められる場合には、受けた精神的被害の程度如何によっては、不法行為の成立を肯定しなければならないが、本件では福井局担当者は被控訴人に対し、法律上実現不能な期待を抱かせたものではなく、試験合格を前提とする励ましを述べていたに過ぎないと認めるのが相当であって、不法性は認められないから、信義則に反するとの被控訴人の主張は採用できない。

八以上の次第であるから、控訴人に対し、労働契約上の権利若しくは控訴人の職員たる地位を有するとの被控訴人の主位的請求は理由がなく、棄却を免れないものというべきである。

第三予備的請求について

一被控訴人は、臨時雇が常勤化し、被控訴人において雇用の継続を期待すべき実態が生じていたにもかかわらず、国公法上の制約から労働契約上の地位が認められないとすれば、このような期待を持たせるに至った福井局の人事管理自体が違法であると主張する。

二しかるところ、臨時雇は日日雇用であり、予定雇用期間内といえども必要性がなくなれば解免されるものであり、その地位が極めて不安定なものであることはいうまでもなく、このような地位に鑑み、本件閣議決定は、その常勤化を防止し、雇用の継続を期待させる事態を生じさせないように種々の措置の実施を決定していたものであり、基本通達及び運用通達も臨時雇を再雇用する場合に中断期間を設けて、臨時雇の地位を明確にし、常勤化への期待を生じないよう配慮しているのであるから、福井局においてもこれらの趣旨に沿い、任用した臨時雇に対し、適正な人事上の措置を採り、あらぬ期待を持たせることにより、就職の機会を失わせるなどの損害を被らせないよう人事管理すべき義務があったというべきである。そして、前認定のように、冬期請負人の代人への組替、昭和四七年二月二六日から二八日までの中断期間の事後設定、時間給から日給、日給から時間給への切替え発令、郵便課における同年六月二日の解免の発令につき辞令簿上処理されていない点について、事務処理の不適切さが認められるが、これらはいずれも事務処理上の過誤に過ぎず、これがあるからといって被控訴人に雇用継続を期待させたことにはならないし、右過誤が被控訴人主張の「期待」の原因、動機になったという関係も認められない。

三しかも、前認定によると、被控訴人は採用時から職員採用試験に合格することなく、本務者としての地位を取得できると期待していたとは認め難く、また、右試験に合格するまで臨時雇の地位が継続するものと期待すべき理由のないことは、先に判断したとおりであり、被控訴人の期待はいまだ事実上のものに過ぎないのであって、法的に保護されるべきものとはいえず、またそのような期待を抱かせたことについて控訴人の故意、過失は認められない。

四したがって、控訴人に不法行為責任があるとはいえず、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の予備的主張は採用できない。

第四結論

以上の次第であり、被控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よって、本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却し、被控訴人の附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井上孝一 裁判官井垣敏生 裁判官紙浦健二)

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